
一定以上の資本金をもつ企業が下請事業者と取引を行う場合は「下請代金支払遅延等防止法(以下、下請法)の対象かどうか」「違反していないか」を十分に考慮する必要があります。
健全な取引を継続していくためには、法律を正しく理解したうえで適切な対応を取ることが重要です。しかし、下請法の判断基準はやや複雑であり、すべてを正確に理解するのは難しいと感じる方もいるでしょう。
本記事では、下請法の対象となる判断基準を紹介します。親事業者の義務や禁止事項も解説しますので、ぜひ参考にしてください。
なお、下請法は2024年5月16日に法改正され、2026年1月1日に施行されます。法律名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(取適法)へ変更されるため理解しておきましょう。
適用対象の拡大や禁止行為の追加などがされるため、詳しくは公正取引委員会のパンフレットなどを確認しておくと安心です。
なお本記事では、改正前の下請法について解説している点にご留意ください。[参考1]
下請法の対象かどうかは、資本金区分と取引内容で判断します。さらに、資本金区分は4つに分類された取引内容によって異なります。
なお、下請法の対象となる判断基準は比較的シンプルなため、専門知識がない方でも適切な判断が可能です。
本章では、下請法の対象となる取引と資本金区分について詳しく解説します。
「製造委託」とは、事業者が販売用・事業用に使用する物品や半製品、部品、原材料などの製造を外部の事業者に委託することです。製造委託には、物品の製造に用いる専用の金型や木型、治具などの製造も含まれます。
製造委託の具体例は以下のとおりです。
自動車メーカーが車載部品の製造を委託する
アパレル企業がデザインした服の縫製を工場に委託する
メーカーが自社製品用の金型製作を専門業者に委託する
製造委託の資本金区分は以下のとおりです。
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
3億円超 | 3億円以下 |
1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下 |
下請事業者には、個人事業主も含まれます。[参考2]
「修理委託」とは、事業者が業務で使用したり自社で請け負ったりした物品の製造・販売・修理を他の事業者に委託することです。対象になるのは、物品の機能や性能を維持または回復させる行為です。
点検や清掃のみの委託は該当しませんが、修理業務が含まれる場合は修理委託としてみなされます。
修理委託の具体例は以下のとおりです。
家電メーカーが販売した製品の保証内修理を他事業者に委託する
運送会社が自社トラックの整備・修理を専門業者に委託する
レンタル会社がレンタル品の修理を委託する
修理委託の資本金区分は以下のとおりです。
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
3億円超 | 3億円以下 |
1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下 |
下請事業者には、製造委託と同様に個人事業主も含まれます。[参考2]
「情報成果作成委託」とは、事業者が顧客に提供する情報成果物の作成を自社以外の事業者に委託することです。具体的には、プログラム・設計・デザイン・文書・映像などが該当します。
情報成果物は「プログラムの作成」と「プログラム以外の作成」に分類されており、それぞれ下請法の適用を受ける資本金区分が異なります。
情報成果物作成委託の具体例は以下のとおりです。
プログラム作成:新規の顧客管理システム、アプリのプログラミング委託など
プログラム以外:広告用デザインの作成、取扱説明書の執筆委託、放送番組の制作など
情報成果物作成委託の資本金区分は以下のとおりです。
▼プログラム作成
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
3億円超 | 3億円以下 |
1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下 |
▼プログラム以外の作成
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
5,000万円超 | 5,000万円以下 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 1,000万円以下 |
いずれも、下請事業者には個人事業主を含みます。プログラムかプログラム以外かによって資本金区分が大きく異なるため、注意が必要です。[参考2]
「役務提供委託」とは、自社のために行う役務の提供や、事業者が顧客に提供するサービスを他事業者に委託することです。役務は「特定役務」と「その他役務」に分類され、具体的には以下のようなサービス・役務が挙げられます。
分類 | サービス・役務の例 |
|---|---|
特定役務 | ・顧客への商品の配送 |
その他役務 | ・コールセンター業務の代行 |
役務提供委託に関しても、特定役務かその他役務かで資本金区分が異なります。それぞれの資金区分は以下のとおりです。
▼特定役務
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
3億円超 | 3億円以下 |
1,000万円超 3億円以下 | 1,000万円以下 |
▼その他役務
親事業者(委託する側)の資本金 | 下請事業者(受注する側)の資本金 |
|---|---|
5,000万円超 | 5,000万円以下 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 1,000万円以下 |
特定役務か否かは、運送・倉庫保管・情報処理に含まれる業務かどうかで判断します。資本金区分が大きく異なるため、正確に押さえておきましょう。なお、下請事業者には個人事業主も含まれます。[参考2]
下請法の対象となる親事業者には、主に4つの義務があります。本章では、親事業者が負う義務について詳しく見ていきましょう。
親事業者は、下請事業者に対して製造や情報成果作成などを委託する際、発注後すぐに書面を交付しなければいけません。交付する書面は、下請法第3条の規定に基づくことから「3条書面」と呼ばれます。
書面の交付には、取引内容を明確にし、曖昧な発注によるトラブルを防止する目的があります。3条書面は記載項目が定められており、具体的な内容は以下のとおりです。
親事業者及び下請事業者の名称または氏名
委託した製造・修理・情報成果作成・役務提供等の区分
委託した内容(給付の内容)
下請事業者の給付を受領する期日
給付を受領する場所
下請代金の額(または算定方法)
支払期日(後述の60日ルールに適合すること)
支払方法(手形などを交付する場合は種類と期日)
原材料などを有償で支給する場合の品名・数量・対価
納品後の検査期間
また、一括決済方式を利用する場合は「利用する旨」と「金融機関名」を記載する必要があります。
3条書面は、契約書とは別に交付が必要です。記載事項に漏れがあると、下請法違反となるため注意が必要です。[参考3]
下請法における3条書面について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
関連記事:下請法3条書面とは?企業が知るべきポイントと基本の記載事項
下請法5条により、親事業者は下請事業者とのすべての取引内容を正確に記載した書類を作成し、保存しなければいけません。
取引に関する書類は、公正取引委員会が、4つの義務と13の禁止事項を親事業者が遵守しているかを判断する際の根拠となる資料です。4つの義務とは、書面交付・支払期日設定・書類作成と保管・遅延利息支払を指します。
作成した書類は、取引が完了した日から2年間適切に保存しなければいけません。
書類には、以下の事項を正確に記載する必要があります。
下請事業者の名称及び住所
親事業者の発注年月日
委託した給付の内容、及び下請事業者から給付を受領した日
下請代金の額、及び代金を変更した場合は理由
代金を支払った年月日・金額・支払方法
また、下請事業者の責めに帰すべき事由により受領を取消・拒否した場合は、理由を記載した書類を作成し保管します。
取引に関する書類を適切に作成・保存しなかった場合も、下請法違反として指導・勧告の対象になるため注意が必要です。[参考2][参考3]
下請法第2条の2により、親事業者は、下請事業者から物品・役務を受領した日から60日以内のできるだけ短い期間で、支払期日を定めなければいけません。60日以内の支払期日の設定は、下請事業者の資金繰りを守るために定められた規定です。
期日を定めなかったり、受領日から60日を超えて設定したりした場合、支払期日は法的に「60日目」に繰り上げられます。[参考2][参考3]
下請法第4条の2により、親事業者が支払期日までに下請代金を支払わなかった場合は、受領日から60日を超えた日から実際の支払日までの期間に遅延利息の支払義務が生じます。なお、遅延利息の利率は、一律で年率14.6%と定められています。
双方の合意により遅延利息の利率を定めていても、特約は無効となるため、注意しましょう。[参考3]

下請法の対象となる親事業者には、11の禁止項目が定められています。それぞれ詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。
下請法第4条第1項第1号により、親事業者は、下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、発注した物品や役務の給付の受領を拒否してはいけません。また、正当な理由なく納期を延長することも下請法で禁止されています。[参考3]
受領日から60日以内の法定支払期日を超えて下請代金を支払わないことも、下請法第4条第1項第2号により禁止されています。
合意した支払期日が60日以内であっても、期日を過ぎて支払う行為は禁止です。違反した場合、年率14.6%の遅延利息を支払わなければいけません。[参考2][参考3]
下請法第4条第1項第3号により、親事業者は、下請事業者の責めに帰すべき理由がないにもかかわらず、一方的に下請代金を減額することはできません。
たとえば「協賛金」「リベート」「歩引き」などの名目で、納入後に代金の一部を差し引く行為や、発注後や受領後に代金の単価を一方的に引き下げる行為などは禁止です。[参考2][参考3]
下請法第4条第1項第4号により、下請事業者から納品された物品や役務を受領したあと、下請事業者の責めに帰すべき理由がないまま返品してはなりません。
たとえば、親事業者の販売不振や在庫過多を理由とした返品、または納品後に親事業者の側で破損させてしまった物品の返品などは「不当返品」に該当し、禁止されています。[参考3]
下請法第4条第1項第5号により、発注内容と同種または類似の給付について、通常支払われる対価に比べて著しく低い金額で下請代金を定める行為は禁止です。
具体的には、以下のような要素がある場合に買いたたきと判断されます。
算定根拠がない一方的な価格決定
市場価格や原材料費の高騰を考慮しない価格据え置き
競合他社の見積もりだけを根拠にした価格設定
不当な買いたたきは避け、適正な価格での取引を行うのが原則です。[参考2][参考3]
下請法第4条第1項第6号では、自己の指定する物品や役務を強制的に購入させたり、利用させたりすることを禁止しています。
たとえば、製品の品質に影響しない親事業者の福利厚生サービスや、特定メーカーの資材を不当に高い価格で購入させる行為などが該当します。[参考3]
下請法第4条第1項第7号により、下請事業者が自らの取引に関する法令違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたことを理由に、親事業者が報復措置を取るのは禁止です。
報復措置は、下請事業者に対して取引の停止や数量の削減といった不利益な取り扱いをすることなどが該当します。[参考3]
親事業者が製造に必要な原材料などを下請事業者に有償で支給した場合に、費用を下請代金の支払期日より早い時期に相殺したり、現金で支払わせたりすることはできません。
有償支給原材料等の対価の早期決済は、下請法第4条第2項第1号で禁止されており、下請事業者の資金繰りが悪化することを防ぐ目的があります。[参考3]
下請法第4条第2項第2号により、下請代金の支払を手形で行う場合に「割引困難な手形」を交付するのは禁止です。
「割引困難な手形」とは、一般的に繊維業以外の業種で支払サイトが120日を超える手形を指します。なお、特定業種の支払サイトは90日です。一般の金融機関で割引や現金化が困難な手形は「割引困難な手形」と判断されます。[参考3]
下請法第4条第2項第3号により、親事業者が下請事業者に対して、自社のために金銭や労務の提供を不当に要請し、下請事業者の利益を害することは禁止です。
具体的には、親事業者が開催するパーティーへの協賛金の不当な要求や、親事業者の社員の業務を無償で請け負わせる行為などが該当します。[参考3]
下請法第4条第2項第4号では、発注後に下請事業者の責めに帰すべき理由なく、親事業者が、不当な給付内容の変更及び不当なやり直しを要求するのは禁止されています。
「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」とは、費用を負担せず一方的に給付の内容を変更させたり、完成した給付のやり直しを不当に要求したりする行為を指します。上記は、下請事業者の予期せぬコスト発生や工数増加を防ぐための規定です。[参考3]
下請法に違反すると、是正勧告や罰金などの罰則が科される場合があるため、注意が必要です。本章では、下請法に違反した場合の罰則を紹介します。
下請法第7条により、親事業者が下請法に違反した場合は、公正取引委員会または中小企業庁から是正勧告を受けます。また、勧告に加え、事業者名と違反事実の内容と勧告の概要が公開されるため注意が必要です。
下請法に違反した事実が公表されると、企業としての社会的信用が低下する可能性があります。下請業者との関係悪化につながる恐れもあるため、法律に遵守した対応を行うことが重要です。[参考2][参考3]
下請法は、勧告や公表といった行政指導だけでなく、刑事罰としての罰則も定めています。たとえば、以下のような場合は50万円以下の罰金が科されます。
3条書面の交付義務に違反し、書面を交付しなかった場合(下請法第3条)
公正取引委員会の検査において、報告拒否や虚偽報告をした場合(下請法第10条、第11条、第12条)
上記の罰金は、違反行為をした個人だけでなく、所属する企業にも科される点を理解しておきましょう。[参考3]
下請法に違反すると、罰金による経済面だけでなく、是正勧告や公表による社会的信用の低下といったリスクも発生します。取引先との良好な関係性を築くためには、法律に遵守した適切な対応を行うことが重要です。
本章では、下請法に違反しないためのポイントを紹介します。
下請法の適用範囲や禁止行為の判断に悩む場合は、公正取引委員会や中小企業庁の相談窓口を活用するのが一つの方法です。相談窓口では、下請法の考え方や具体的な取引事例を無料で教えてもらえます。
ただし、相談窓口は都道府県によって管轄が異なります。相談したい場合は、公正取引委員会の相談窓口URLから最寄りの相談先を確認し、問い合わせましょう。[参考4]
下請法には4つの義務と11の禁止行為があり、内容も複雑で判断に迷うケースも少なくありません。下請法に適切に対応するためには、担当者個人の知識に頼るのではなく、社内全体で下請法の理解を深めることが大切です。
具体的な取引事例を含めた社内マニュアルを作成し、発注部門の社員全員が定期的に研修を受ける体制を整えることで、法律違反のリスク防止につながります。
特定の取引が下請法上の問題を引き起こす可能性がある場合や、すでに発生した問題の対応方法について不明な点がある場合は、専門家に相談するのも有効です。
専門家は、最新の法令や判例に基づいた具体的なアドバイスを提供してくれるため、リスクを最小限に抑えられます。
下請法違反の多くは、書面の発行や契約書の内容の不備に起因しています。なかでも「3条書面」の交付義務を確実に履行するためには、リーガルチェック済みの契約書テンプレートや発注書フォームを事前に用意しておくと安心です。
テンプレートを用意しておくことで、発注のたびに内容が法に触れないかを確認する手間を省け、安心して取引を行えます。
下請代金支払遅延等防止法の対象かどうかを判断することは、健全な取引を継続していくうえで非常に重要なポイントです。
下請法の対象については、主に資本金額と取引内容が判断基準となりますが、内容がやや複雑であるため、判断に迷うケースも少なくありません。また、2026年に改正法が施行され、適用範囲や取引の拡大・追加もあります。
常に下請法に遵守した取引を行うためには、正確かつ専門的な知識が欠かせません。常時専門家への相談が難しい場合は「Legalscape」を活用するのがおすすめです。
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本記事の記述は一時的情報であり、特定の事案への法的助言を行うものではありません。
吉田 修平
株式会社Legalscape コーポレート本部法務 Legal Counsel / 弁護士
2017年に弁護士登録後、インハウスローヤーに転身。金融機関で銀行法務・新規事業開発に携わり、WeWork Japan にてビジネス法務・コンプライアンス体制構築を主導。2024年3月Legalscapeに入社。法務コンプライアンスの知見をプロダクト開発に活かし、リーガルイノベーションの最前線を支える。
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