
インサイダー取引とは、未公表の重要事実を利用して上場株式等の売買を行う不正行為のことであり、上場企業に関係するすべての人が正しく理解すべき重要なテーマです。
なぜなら上場企業の役員・従業員だけでなく、その家族や取引先なども規制対象となる場合があり、知らないうちに法律違反に該当する可能性があるためです。
本記事では、インサイダー取引の定義、規制対象者、重要事実の種類、禁止される行為、違反した場合の罰則、そして企業が講じるべき防止策について体系的に解説します。
違反により個人だけでなく、企業にも多額の罰金刑が科される可能性があります。インサイダー取引を適切に防ぐためにも、基礎から確実に押さえておきましょう。
インサイダー取引とは、企業の内部情報を知る立場の者が、情報公表の前に株式などを売買する行為です。最初に、インサイダー取引の定義と禁止されている理由を解説します。
インサイダー取引とは、未公表の重要事実を知る立場にある者が、情報を利用して株式などの売買をする行為です。
金融商品取引法では、上場会社の役員・従業員などの会社関係者や、情報を伝達された者が、業務などを通じて得た未公表の重要事実を基に当該上場企業の株式などを取引することを禁止しています。
たとえば、決算情報や合併情報などが公表される前に、当該情報を業務上知った従業員が自社株を売買する行為がインサイダー取引に該当します。[参考1]
インサイダー取引が禁止されているのは、投資者間の公平性を確保し、金融市場全体の健全性を保つためです。
企業の内部情報は、本来すべての投資者に対して公平に提供されるべきものですが、内部の立場にある者が未公表の重要事実を使って先に取引すると、一般投資家は大きな不利益を受けるおそれがあります。
情報格差が生じれば市場への信頼が損なわれ、取引そのものが成り立たなくなる可能性も否定できません。たとえば会社が業績を下方修正することを役員だけが先に知り、株価が下落する前に売却すれば、一般投資家は公平な取引機会を奪われます。
このような不正を防ぐため、金融商品取引法ではインサイダー取引を厳しく禁じ、違反者には重い罰則を科しています。
インサイダー取引の規制対象者は、企業内部の立場で重要事実を知り得る「会社関係者」と、その情報を伝達されて取引を行う「情報受領者」です。ここからは、規制対象者について見ていきましょう。
会社関係者として当てはまるのは、以下のとおりです。
上場会社の役員
上場会社の従業員
上場会社の子会社の役員・従業員
会計監査人
顧問弁護士・コンサルタントなどの外部専門家
業務委託先や取引先で内部情報に触れる立場にある者
会社と1年以内に契約関係があった元役員・元従業員 など
インサイダー取引規制の主要な対象は、業務上の立場から未公表の重要事実を知り得る者です。これらの者は、業務上知り得た重要事実を利用して株式等を売買することが禁止されています。[参考1]
情報受領者とは、会社関係者から未公表の重要事実を伝達され、その情報を利用して取引を行う者です。会社関係者ではない立場であっても、内部情報を得て取引すれば市場の公平性を損なうため、金融商品取引法の規制対象になります。
情報受領者は、情報を最初に受け取る「第一次情報受領者」と、さらにその情報を伝達される「第二次情報受領者」に分けられます。
第一次情報受領者は、会社関係者から直接重要事実を伝達された者です。家族や友人、同僚などの関係性に関わらず、未公表の重要事実を受け取り、それを利用して株式等を売買すればインサイダー取引に該当します。
第二次情報受領者は、第一次情報受領者からさらに情報を伝達された者を指します。
インサイダー取引規制の対象となる情報受領者は、会社関係者から直接情報の伝達を受けた第一次情報受領者に限定されています。第一次情報受領者からさらに情報の伝達を受けた者(第二次情報受領者)や、それ以降の者(第三次、第四次…)は、原則としてインサイダー取引規制の対象外です。
これは、処罰範囲が不明確になり、無制限に広がることを防ぐためです。
インサイダー取引の規制対象となる重要事実には、企業が決定した事項や実際に発生した事実、決算情報などが含まれます。ここからは、それぞれの規制対象になる重要事実について見ていきましょう。
決定事実とは、上場会社などが経営や事業運営に関する重要な事項について決定した事実のことです。金融商品取引法では、株価への影響が大きい事柄が取引に悪用されるのを防ぐため、これらの未公表情報を利用した売買を禁止しています。
具体的には、以下のとおりです。
合併
会社分割
新株発行
自己株式の取得
業務提携などの経営に関する重要事項の決定 など
決定事実は一般投資家にとって企業価値を判断するうえで重要な指標となるため、情報が公表されるまでは公平性確保の観点から取引に利用できません。したがって、企業の内部でまだ公表されていない決定が行われた段階で、その情報を知った関係者にはインサイダー規制が適用されます。
発生事実とは、上場会社において実際に生じた重要な出来事です。内容が株価に影響を及ぼす可能性があるため、規制対象とされています。決定事実が「会社が判断した事項」であるのに対し、発生事実は「現実に起こった事象」である点が特徴です。
発生事実の例として挙げられるのは、以下のとおりです。
主要取引先との取引の停止
大規模災害による被害
重大な訴訟の提起
主要株主の異動
上場廃止の原因となる事実の発生など
発生事実は企業の収益や財務状況に直接的な影響を与える可能性が高いため、未公表の段階で知り得た者が取引に利用すると、市場の公平性が損なわれます。そのため、発生事実が確認された時点でインサイダー規制が適用され、情報の公表までは売買が制限されます。
決算情報とは、売上高等や配当について、公表した直近予想値(予想値がないときは実績値)との比較で、新たに算出した予想値又は決算において一定以上の差異が生じたことを指し、企業価値の判断に直結する重要な情報です。金融商品取引法では、決算情報が未公表の段階でその内容を利用した取引を禁止しています。
具体的には、以下のとおりです。
売上高の大幅な増減(±10%以上)
経常利益・純利益の大幅な増減(±30%以上)
剰余金の配当の大幅な変動(±20%以上)
決算情報は一般投資家にとって投資判断の基礎となる資料で、これを内部関係者だけが先に知ることは大きな不公平につながります。そのため企業が決算内容を確定した時点で、情報を知る立場にある者はインサイダー規制の対象となり、公表まで取引が制限されます。
市場の公正性を保つためにも、決算情報は最も代表的な重要事実の一つです。
バスケット条項とは、決定事実や発生事実、決算情報のいずれにも該当しないものの、株価に重要な影響を及ぼす可能性がある事実を包括的に規制するための仕組みです。
企業活動は多様で、あらかじめ規定された項目だけでは対応できない重要事実が生じる可能性があるため、株価に重大な影響を与えるおそれのあるその他の事実についても規制対象とし、情報の不正利用を防止しています。
過去にバスケット条項が適用された例は、以下のとおりです。
多額の架空売上や不適切な会計処理が判明した事実
新薬開発における重篤な副作用の発生
会社の社会的信用を著しく毀損するような不正行為が判明した事実
決定事実や発生事実、決算情報の分類に当てはまらないものの、バスケット条項により、市場の公平性は確保されています。

インサイダー取引に該当する行為は、未公表の重要事実を知ったうえで株式を売買する行為や、その情報を第三者へ伝達する行為や取引を推奨する行為です。
未公表の重要事実が公表されたと判断されるには、証券取引所の適時開示や報道機関による公表などにより、投資家が広く情報を入手できる状態になっている必要があります。
ここからは、未公表の重要事実を知り株式売買を行うほかに、インサイダー取引に該当する行為を紹介します。
未公表の重要事実を第三者へ伝達する行為も、公表前に売買をさせることにより第三者に利益を得させ、又は第三者の損失の発生を回避させる目的があれば(目的要件)、インサイダー取引の規制対象です。
伝達の対象が家族や友人であっても、重要事実を知らせることで株式売買に利用される可能性があるためです。なお、目的要件により、企業の業務提携交渉やIR活動など、正当な業務活動における情報交換が不当に制限されることを防いでいます。
たとえば会社関係者が合併や決算情報などの未公表事実を家族に伝え、その家族が株式を売買した場合、情報伝達者と取引を行った者の双方が規制対象となります。また重要事実を知る者が他人に取引を勧める「推奨行為」も禁止です。
未公表の重要事実を知った上で、株式の売買を勧めること(取引推奨)も、第三者に利益を得させ、又は第三者の損失の発生を回避させる目的があれば(目的要件)、インサイダー取引の規制対象です。
重要事実を伝達しないものの、その存在をほのめかすといった方法でインサイダー取引を誘発するような、規制の潜脱的行為を防ぐ目的があります。
伝達や推奨が行われた時点で規制対象となり、結果として取引が実行されなくても違反と判断される場合があります。[参考1]
ただし、情報伝達や取引推奨を受けた者が、当該重要事実に関する公表前に取引を行わなかった場合、刑事罰や課徴金の対象にはなりません。
しかし、その場合でも規制違反であることに変わりはなく、行為者が金融商品取引業者であれば行政処分の対象に、上場会社の役職員であれば社内規則違反による処分の対象となり得ます。
インサイダー取引規制に違反すると、行政上の制裁に加えて、刑事罰が科される可能性があります。主な処分は、以下の2つです。
課徴金納付命令
刑事罰
課徴金納付命令は、制裁として課徴金を納付しなければいけない命令で、金融庁から発せられます。命令対象は自分または第一次情報受領者がインサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合です。
課徴金は実際の取引で得た利益や回避した損失を基準に算定されるのではなく、金融商品取引法に定められた計算式に従って算出される抽象的な経済的利得相当額となり、実際に得た利益よりも多額に及ぶ場合も否定できません。
自らインサイダー取引規制に違反する売買等を行った場合など、刑事事件として扱われる違反をした場合、最大「5年以下の懲役」または「500万円以下の罰金」が科せられ、場合によっては両方が科せられます。
さらに未公表情報を単に伝えてその相手が行動に移せば処罰されるほか、法人の役員や従業員が業務に関連してインサイダー取引を行った場合、行為者だけでなく法人自体にも最大5億円の罰金が科されるなど、さまざまな罰則があります。[参考1]
インサイダー取引の発生を防ぐためには、企業が組織的にルールを整備し、従業員が正しく理解して行動できる環境をつくることが重要です。ここからは、企業が取るべき防止策について見ていきましょう。
インサイダー取引を防止するためには、企業内でしっかりとした社内規程の整備が重要です。金融商品取引法に基づくルールを社内で具体的に示すことで、従業員が未公表情報を適切に取り扱えるようになります。
社内規程には以下のものを盛り込み、従業員の行動基準を明確にしましょう。
重要事実の管理方法
株式売買の事前申請制度
情報管理責任者の設置 など
また未公表情報へのアクセス権限を限定すれば、情報漏えいのリスクも低減できます。
インサイダー取引のリスクを軽減するには、従業員が正しい知識を身に付けなければいけません。そのため企業は、インサイダー取引に関する研修を定期的に実施するとよいでしょう。
研修では、重要事実の具体例や情報管理のポイント、禁止される行為などを分かりやすく解説し、従業員が自分の業務と関連づけて理解できるようにします。特に内部情報を取り扱う部門や役職者には、より詳細な内容の研修を行い、リスク認識を高めることが重要です。
継続的な教育を通じて、全従業員がコンプライアンス意識をもつことができれば、インサイダー取引を防ぐ体制が整います。
インサイダー取引を適切に防ぐには、企業と従業員が金融商品取引法の内容を正確に理解し、日々の業務で適切に対応できることが欠かせません。規制対象者や重要事実、禁止行為、罰則などは多岐にわたり、常に最新の法令理解が求められます。
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本記事に記載の情報は一般的情報であり、特定の事案への法的助言ではありません。
吉田 修平
株式会社Legalscape コーポレート本部法務 Legal Counsel / 弁護士
2017年に弁護士登録後、インハウスローヤーに転身。金融機関で銀行法務・新規事業開発に携わり、WeWork Japan にてビジネス法務・コンプライアンス体制構築を主導。2024年3月Legalscapeに入社。法務コンプライアンスの知見をプロダクト開発に活かし、リーガルイノベーションの最前線を支える。
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