
紙面で取引する契約書には、印紙税の納税として収入印紙を貼る決まりがあります。一方で、電子契約においては印紙の貼付は不要で、印紙税の対象外とされています。
なぜ電子契約だと印紙税がかからないのでしょうか。
本記事では、印紙税の仕組みや、電子契約で印紙不要となる理由を法律的な根拠をもとに解説します。電子契約を進める際の注意点も紹介していますので、印紙税節約のために電子契約を検討中の方は、ぜひ本記事をご活用ください。
印紙税とは、紙の契約書や領収書、手形など「課税文書」とされる書類に課される国税で、作成者が収入印紙を貼り付け、消印を施すことで納付が完了します。
なかには、収入印紙と印紙税の違いについて混同する方もいるかもしれません。収入印紙はあくまで税金を納めるための証票(手段)であり、実際の税金そのものは印紙税です。そのため、印紙税を納める手段として収入印紙が用いられていると捉えるとよいでしょう。
課税対象となる書類や税額は印紙税法で細かく分類され、契約の内容や記載金額によって負担額は大きく変わります。
特に高額取引では、契約金額が上がるほど印紙代も比例して増えるため、取引件数の多い企業では年間で数百万円以上と相当なコストになり、負担を抱えるケースも少なくありません。
また、紙の契約書では郵送や保管、紛失防止対策など運用上の手間が多くかかる点もネックです。そこで、費用面・事務負担を回避するために、印紙税が一切発生しない電子契約の導入が進みつつあるのです。
前述したとおり、紙の契約書を作成すると印紙税の納付が必須となり、取引額が大きいほど負担は重くなります。そこで、印紙代を抑えられる手段として広がっているのが電子契約です。
電子契約は、PDFなどの電子データに電子署名やタイムスタンプを付けることで、紙の書類と同等の証拠力を持たせる仕組みです。電子データで交わされる契約は印紙税法上の「課税文書」に該当しないため、収入印紙を貼る必要がなく、印紙税も一切発生しません。
なぜ電子契約では印紙税が不要になるのか、法的根拠をもとに詳しく解説します。
印紙税が課されるのは、紙面にて「課税文書」に指定される書面を作成した場合に限られます。
印紙税法では、課税文書の作成を「用紙に課税対象となる事項を記入し、文書の目的に沿って行使すること」と定義しており、電子データによる契約では印紙税法上の「書面作成」にあたりません。そのため、PDFやクラウド上で締結する電子契約は、法的にも課税文書に該当せず、印紙税を納める必要がないのです。
なお、印紙税がかかる書類は以下のように区分されています。
号 | 種類 |
|---|---|
1 | ・不動産、鉱業権、試掘権、無体財産権、船舶もしくは航空機または営業の譲渡に関する契約書 |
2 | 請負に関する契約書 |
3 | 約束手形または為替手形 |
4 | 株券、出資証券もしくは社債券または投資信託、貸付信託、特定目的信託もしくは受益証券発行信託の受益証券 |
5 | 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書 |
6 | 定款 |
7 | 継続的取引の基本となる契約書 |
8 | 預金証書、貯金証書 |
9 | 倉荷証券、船荷証券、複合運送証券 |
10 | 保険証券 |
11 | 信用状 |
12 | 信託行為に関する契約書 |
13 | 債務の保証に関する契約書 |
14 | 金銭または有価証券の寄託に関する契約書 |
15 | 債権譲渡または債務引受けに関する契約書 |
16 | 配当金領収証、配当金振込通知書 |
17 | ・売上代金に係る金銭または有価証券の受取書 |
18 | 預金通帳、貯金通帳、信託通帳、掛金通帳、保険料通帳 |
19 | 消費貸借通帳、請負通帳、有価証券の預り通帳、金銭の受取通帳などの通帳 |
20 | 判取帳 |
[参考1][参考2][参考3]
印紙税は、紙の文書に収入印紙を貼り付けて消印するのが前提で成り立っている仕組みです。つまり、物理的な書面が存在することが必須であり、貼付行為そのものが納税方法として位置づけられています。
一方、電子契約はPDFやクラウド上のデータとして契約を締結するため、印紙税法が想定する「印紙を貼る対象となる書面」が存在しません。紙がない以上、印紙を貼る行為自体が発生しないため、電子契約には印紙税が課されない仕組みとなっています。
なお、電子契約では電子署名やタイムスタンプによって改ざん防止機能が備わり、紙の契約書と変わらない、もしくは現行の方法以上に信頼性を確保することが可能です。
電子契約に印紙税が発生しない理由については、法律上の解釈だけでなく、国税庁や国会での公式な見解としても明確に示されています。
国税庁では、印紙税はあくまで「紙の文書」に対して課される税金であり、電子ファイルで締結された契約は課税文書に該当しないとの通達を出しています。また少し遡りますが、2005年の国会答弁でも「印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されない」との回答が出ていました。
電子データへの課税についてはまだ議論される余地はあるものの、現状では紙の契約書を前提とした課税方式が長期間維持されています。また、現行制度によって各事業者は電子契約を安心して導入でき、印紙税削減によるコストカットも実現できている状態です。[参考4][参考5]
電子契約は、単純に文書を電子データにして取引を進めればよいものではありません。電子契約として成立させるためには、複数の法的要件を満たさなくてはなりません。
ここでは、電子契約を導入するにあたって気をつけるべきポイントを解説します。
電子契約では、契約の信頼性を示すことが不可欠です。具体的には、誰が署名したのかという本人確認と、内容が途中で書き換えられていないかなど、改ざんを防止する点の2つを証明する電子署名が必要です。
さらに、契約データにタイムスタンプを付与することも求められています。署名がいつ行われたのかを第三者が検証できる状態とし、契約の真正性をアップさせることが可能です。タイムスタンプは後から変更できない時刻情報の記録となるため、トラブル時の証拠力を大幅に高める役割も担っています。
電子契約で取り交わしたデータは、電子帳簿保存法のルールに沿って適切に保存しなくてはいけません。紙の契約書のようにファイルに綴じて保管するだけでは不十分で、電子データならではの要件を満たすことが求められます。
まず重要なのは真正性の確保です。タイムスタンプの付与や訂正・削除履歴の記録、あるいは操作制限を備えたシステムによって、保存後に内容が書き換えられていないことを証明しなければいけません。
次に、見読性の確保です。必要なときにすぐ契約内容を確認できるよう、適切なディスプレイや端末を設置し、文字や表示が判別できる環境を整えることが求められます。システムやデータ閲覧に使用する機器の操作手順をまとめたマニュアルを備え付けることも保存要件のひとつです。
そして、検索性の確保です。取引日、金額、相手先など複数条件を組み合わせて検索できる仕組みが必要で、整えておくと税務調査時にも迅速に対応できます。データのダウンロード提供が可能な場合は要件が一部緩和されます。[参考6]
電子契約と同様に、オンラインで発行される電子領収書についても印紙税は課されません。
たとえば、ECサイトの発行する領収書やクラウド会計システムの電子領収書などが該当し、印刷しない形式で発行されるのであれば印紙は不要です。
電子契約は便利な仕組みではあるものの、あらゆる契約がデータ化できるわけではありません。法律で「書面で作成」「紙で交付」と明記されている契約は、従来どおり紙での締結が求められ、電子契約を利用することは認められません。たとえば事業用定期借地契約などが代表例です。
近年、宅建業法改正により、重要事項説明書や賃貸借契約書の電子化が認められるなどデジタル化が進んでいますが、まだ紙が必須の契約も残っています。契約方式を選ぶ際は、該当する取引が電子契約に対応しているか事前に確認しておきましょう。

電子契約で締結した文書を後から紙に印刷した場合、原本にはならず、内容確認のための写しとして扱われます。
原本は、電子署名やタイムスタンプによって真正性が証明された電子データそのものであり、印刷物は法的な効力を持つ契約書とは別物です。そのため、電子契約データを単純に出力しただけでは、新たな課税文書を作成したことにはならず、印紙税は発生しません。
ただし、印刷した紙に改めて署名や押印を加え、紙の契約書として締結した場合は、紙のほうが原本とみなされ、印紙税の課税対象となる可能性があります。
電子契約を運用する際は、どの書類を原本とするのかを明確にし、電子契約と紙契約を混在させないルールを整えることが重要です。
電子契約では、原則として印紙は不要です。ただし、電子データを印刷し、印刷したものを使って契約を締結した場合には印紙税が発生する可能性があります。また、法的に電子契約自体が認められていないケースもあるため、事前に法令をよく確認してから契約を進めることが大切です。
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本記事の記述は一般的情報であり、特定の事案への法的助言を行うものではありません。
参考1:第7節 作成者等|国税庁
参考2:No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで|国税庁
参考3:No.7141 印紙税額の一覧表(その2)第5号文書から第20号文書まで|国税庁
参考4:取引先にメール送信した電磁的記録に関する印紙税の取扱い|国税庁
参考6:電子取引関係|国税庁
吉田 修平
株式会社Legalscape コーポレート本部法務 Legal Counsel / 弁護士
2017年に弁護士登録後、インハウスローヤーに転身。金融機関で銀行法務・新規事業開発に携わり、WeWork Japan にてビジネス法務・コンプライアンス体制構築を主導。2024年3月Legalscapeに入社。法務コンプライアンスの知見をプロダクト開発に活かし、リーガルイノベーションの最前線を支える。
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